受け継がれる江戸ことば

受け継がれる江戸ことば

実は上野風月堂の社内では今だ飛び交う江戸ことば。
ユニークな言い回しや粋な表現など、気風のいい江戸っ子の世界へようこそ。

大げさなのは、小っ恥ずかしくていけないよ

江戸っ子の定義は「三代続いて江戸に住んでいること」など諸説あるようですが、260年以上も、江戸・東京で代を重ねてきた風月堂では今もまさに「江戸っ子言葉」が花ざかり。そんな今も生きている江戸っ子の言い回しをここではご紹介いたします。

■大げさなのは、小っ恥ずかしくていけないよ

「小」は少し、小さいという意味ですが、江戸っ子はこの「小(こ)」を言葉の頭につけて、うまい具合に使っています。

「小ぎれい」「小汚い」「小ざっぱり」というように、頭に「小」をつけることで言葉が持つストレートさが緩和されます。このひと呼吸置いた感じが江戸っ子らしさとも言えます。
たとえば「小ざっぱりとした身なり」のように使えば、華美さはなくても手入れが行き届き、すっきりと清潔な着こなし。いかにも江戸好みの服装が想像できます。
「小ぎれい」と言えば、仰々しい派手な美しさというよりは、どこか親しみやすくシンプルにまとまったイメージになります。
「小ぎれいな部屋」というと、整理整頓がなされて掃除が行き届き、居心地の良い部屋の雰囲気。
反対も同様で「汚ねえ部屋だな」と言い切ってしまうと、本当に足の踏み場もない汚れた部屋を指摘しているようになってしまいますが、「小汚え部屋だな」は憎まれ口。そう言いながらも、ちゃっかり上がり込んでお茶を飲んでいる江戸っ子の姿が目に浮かびます。 早口ではっきりとした口のきき方の江戸っ子ですが、直接的にズケズケと言うのは野暮ったいと思っていたようです。

■江戸の町は河岸だらけ?

江戸市民にとって隅田川やその支流は生活と切り離すことのできない交通の要、輸送の大動脈でもありました。
荷物の運搬はもとより、今でいうタクシーのような小型の猪牙船や、舟遊びが楽しめる屋形船などが行き交い、川の上はたいへん賑わっていたようです。
そんな江戸の人々にとって「河岸(かし)」は馴染み深い場所。
「河岸」とはもともとは川や湖の岸辺や船着場という意味ですが、江戸では荷物の揚げ降ろしに便利な河岸に市場や蔵、商店などが集まってきたことから、河岸付近の町そのものを指すようになっていました。
風月堂発祥の地である京橋南伝馬町の近くにも「大根河岸」と呼ばれる青物市場がありましたし、当時日本橋にあった「魚河岸」も言わずと知れた魚介類の市場です。
さて、そんなわけで江戸っ子は、川がない場所でも河岸という言葉をよく使っていました。
場所を移動する場合には「河岸を変えてもう一軒行こうぜ」と飲みに行ったり、道のこっち側を「こっち河岸」反対側を「向こうっ河岸」と言ったりしていました。
向こう岸でも、向こう側でもなく、「向こうっ河岸」と勢いよく言うのが江戸っ子ぽさ。
今でも「信号の向こうっかしへ渡ると・・」なんて使っています。

監修:堀口茉純